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第87話 Rose House①

Author: 霞花怜
last update Last Updated: 2025-07-24 19:00:23

 イヤホンを外した晴翔が顔を強張らせている。

「宿木サークルに、RoseHouse……」

 理玖は低い声で呟いた。

 少なくともRoseHouseには心当たりがあった。

「薔薇の園と表現するRoseHouseなら、恐らくは理研が運営する児童養護施設ですね」

 理玖が所属してる国立理化学研究所には、自然科学科健康増進室という部署がある。

 その中にWOに関わる部署が存在する。

 一つは、WOの生態全般の研究を行う『WO研究部』で、理玖はそこに所属している。

 もう一つは『WO少子化対策部』だ。

 国策としてWOの人口を増やそうという動きに同調して設けられた部署だ。

『WO少子化対策部』の末端に位置付けられているのが、WOに特化した児童養護施設『RoseHouse』だ。

「それなら、俺も知ってますよ。WO特化の養護施設で、保護から健康管理、教育に里親探しまで独自の方法で子供を育てる施設ですよね。赤ちゃんポストもあるって。テレビの特集で観ました」

 日本で唯一のWO専門児童養護施設だ。

 メディアで特集を組まれる機会も多いので、晴翔も知っているのだろう。

「国が試験的に稼働した施設で、位置付けは一応、理研のWO少子化対策部の外部組織になってる。基本は里親斡旋の施設なんだ。理研が関わっているのは、定期的な健診でデータ収集する目的だよ。人権侵害なんて揶揄する声も時々には、聞くね」

 0歳児から受け入れているRoseHouseは検診データを研究に使用する同意を本人に得られない。故に批難する声も大きいが、それ以上に命を救い上げ、通常の病院では対応できないWO特有の病気も含めて子供たちの健康管理を行っている点の方が大きく評価される。

 何より最も世間から評価を得ているのは、里親制度

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    「覆面警官の噂を流した時点で、かくれんぼサークルはGWの乱交集会を中止するのではないかと考えていました。だが、折笠はそうしなかった」 國好の説明に理玖は半分、納得した心持になった。「参加者からの強い要望や圧で中止できなかった、とかですか?」 学生が乱交して、しかもその中から好きな愛人やセフレを買える集会など滅多にない。物好きは継続を強く希望するだろう。 中止にしたくても出来なかったのかもしれない。「それもあるでしょう。収益を考えた結果かもしれません。ですが、Dollを支援してきたバックボーンからの圧、RoseHouseの圧だと、俺は考えています」 理玖は、ぐっと息を飲んだ。 バックでRoseHouseが関わっているのなら、理研も無関係ではなくなる。「DollはRoseHouseから派生した組織と考えます。恐らくはRoseHouseの関係者が学内に居て、折笠に指示を出していた。裏がとれていないので詳細は話せませんが、可能性は高い」 國好の説明は、どこか曖昧だ。 やはりまだ、理玖たちには話せない事情があるらしい。「どうしてRoseHouseとDollに繋がりが? RoseHouseは健全な運営をしている組織ですよね。メディアで取り上げられるくらい、有名だし……」 晴翔が戸惑いながら問う。 國好が返答に困っている。「イイじゃないすか、國好さん。裏取れていなくても、向井先生と空咲さんには話しちゃっても問題ないっすよ」 栗花落がいつもの笑顔で國好を見詰めた。「RoseHouseってね、住み心地良いし飯うまいし、個室だし。一定以上の教育もしてもらえる。環境は充実してて、住んでる分に何の不自由

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    「俺、秋風音也っていうんだけどさ。宿木サークルのサークル長なんだけど、顧問の臥龍岡先生も、向井先生と話したいって言ってたんだ。WO相談会やりたいんだってさ」 臥龍岡という名とWOという単語を聞いて、満流は思わず前のめりになった。「WO相談会? 宿木サークルって、何をするサークルなんだ?」 秋風が考えるような仕草をした。「あー、色々? 好きな本の話とか、悩み相談とか、雑談とか。サークルとか入ってない奴らの溜り場みたいな感じだよ。顧問が臥龍岡先生だから文学の話多めかな。あと、臥龍岡先生が自分がonlyって公表しているから、WOの話も多いぜ」 臥龍岡叶大といえば、文学部の准教授でありながら純文学の作家でもある。甘いマスクと穏やかな語り口、何よりonlyと公表している話題性で、メディアにもしばしば引っ張られている人気者だ。 つくづく慶愛大学は売り文句が付く学者や教授が好きだなと呆れる。「なるほどね、そりゃ、話聞きてぇわな。WO専攻って、学内に折笠先生と向井先生だけだもんね。けど、臥龍岡先生は折笠先生と昔から仲良しじゃん。よく遊びに来るし、それはもう長居してるぜ。折笠先生に相談すればいーんじゃねぇの?」 特に用事もなく、茶飲み友達風に折笠の研究室に居座っている。 古い関係と折笠が意味深な言い方をしていたから、昔から愛人なんだろう。 さりげなく用事を頼まれて研究室を追い出されることも多い。察して部屋を出るが、戻ったタイミングでまだヤっていたりする。いい加減、愛人とは外で遊んでほしいと思う。(鈴木の時は俺を追い出さないで始めちゃったけどなぁ。視られるスリルが好きなんだろうな) 視感プレイというか、羞恥プレイというのか。 どんなプレイが好きでも構わないが、巻き込まないで欲しいと思う。 otherの満流は、他人

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    「ありがとうございます。後で色々聞かせてください。……佐藤先生」 講堂を走り出した向井理玖から、懐かしい呼び名が飛び出した。 満流の脳裏に十四年前が過ぎった。 飛び抜けて頭が良かった神童は、同世代の子供たちからは浮いていた。IQが80以上違うのだから無理もない。教師の満流ですら理玖との会話には気後れした。 内気で人見知り、物静かな少年は窓際の後ろの席で読書に耽るばかりだ。だから積極的に話しかけた。 話す機会が増えて、素直な質を知り、笑顔が可愛いと知った。 控えめな笑顔の奥に小さな恋慕が見え隠れした瞬間から、記憶が無い。 きっかけは些細な会話だったと思う。 気が付いたら涙でぐちゃぐちゃの理玖の顔を押さえ付けて、突っ込んでいた。 たまたま通りかかったPTAの会長と教頭に取り押さえられた。 あの時、満流の人生は終わった。(そうだ、終わったんだ。俺はもう、教師じゃない) 話すことなど何も無い。 惰性のような人生を、ただ漫然と生きてきただけだ。「色々? 嫌だよ」 笑みを含んだ満流の声が理玖に届いたか、わからない。届かなくて良かった。 満流は、床に転がる積木大和を見下ろした。 周囲を確認する。 教壇の近くに医療用の細い注射器が落ちていた。中には白い薬液が満たされている。「プロポフォールか? 呼吸止まったら、どーすんのかね」 理玖を眠らせて誘拐でもするつもりだったのだろうか。 少なくとも殺す目的では無いだろう。 世界的ダンサーの死因になり一般にも薬剤名が知れ渡った麻酔薬は、鎮静鎮痛作用がある。麻酔導

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